金環日食を迎え撃つ
−日本史上最大人数が観察できる金環日食を安全に−
2012年3月18日
  日本天文学会2012年春季年会記者発表
研究概要
2012年5月21日(月)朝の金環日食では、国内の多くの人々が金環食や部分食を楽しむことができる。特に九州南部から関東付近にかけた帯状の範囲(神戸・大阪・京都・名古屋・横浜・東京などを含む)では、月が太陽の大部分を隠し太陽がリング状に輝く金環食になる。これは日本の総人口のおよそ3分の2にあたる約8千3百万人もの人々が、居ながらにして、金環食を観察する事ができることになる。また、その他の地域でも太陽が大きく欠ける部分食が観察できる。このように、今回の金環日食は、日本史上で最も多くの人々が観察できる金環日食である。
日食は顕著な天文現象であり、その観察は、宇宙における地球・月・太陽の位置や運動を実体験できるという非常に貴重な機会であるため、大人の方々はもちろんのこと、特に児童や生徒達にとっては、自然科学への興味関心や学習への強い動機付けになると考えられる。しかし、観察の対象が極めて明るい太陽であること、また、今回の金環日食が平日(月曜日)の始業前の時刻に起きることから、この日食を観察する際には、さまざまな観点からの配慮が必要になる。
観察の対象が太陽であること言う点では、金環日食は皆既日食と異なり、月と太陽が重なった時でも、常にまぶしい太陽面が見えていることに注意が必要である。たとえば、2009年の皆既日食の際、TVで放映された皆既中の様子を見て、金環食の最中は暗くなると勘違いされている方々が比較的多いようである(図1)。しかし、実際の金環日食は、非常にまぶしく、リング状に輝く金環食の最中でも、太陽光線のまぶしさは普段とそれほど変わりありません。
ところで、天文教育普及研究会・日食の安全な観察推進ワーキンググループ等では、2009年の皆既日食の際に、日食を不適切な方法で観察したことにより、国内各地で目の障害(日食網膜症)が起きたことを報告しています。今回の金環日食では、2009年の皆既日食の時より、遙かに多くの人々が観察可能で、かつ、常にまぶしい太陽面が見えている事から、多数の目の障害例が起きる事が懸念されています。
この金環日食の感動を安全に楽しむためには、日食の安全な観察に関する適切な情報発信がきわめて重要である。そこで、国内天文関連団体・機関の合同組織「日本天文協議会」のワーキンググループとして「2012年金環日食日本委員会」を設立し、安全な日食観察のための諸活動を展開してきた。特に、目の安全性に関する調査研究を行い、日食網膜症の要因として、可視光、特に光化学反応に関係する青色光(ブルーライト)の影響が大きいことが分かり、シンポジウム等を通じて、安全な観測法の情報を提供している。
これらの一般普及活動と同時に、兵庫県(明石市)と福島県(郡山市)を結ぶ金環日食の境界線(限界線)を決める教育的・科学的なプロジェクトを進めている。たとえば、精密な限界線の測定を行い、日本の月周回衛星「かぐや」による詳細な月地形データを用いて解析することで、太陽の大きさを正確に決定することが出来る科学的プロジェクトが進められている。この記者会見では、(1)金環日食の安全な観察法の普及活動の状況と、(2)金環日食に向けた教育的・科学的プロジェクトの進展の2つを合わせて報告する。