2012年5月21日の金環日食の特徴
2012年5月21日(月) の朝、日本全域を含む広い範囲で日食が起こる(図2)。なかでも、多くの人々が居住する九州南部・四国の大部分・紀伊半島から関東付近にかけた帯状の範囲(金環帯と呼び、神戸・大阪・京都・名古屋・横浜・東京などを含む)では、太陽の周辺部分以外を月が隠し、太陽の縁のみがリング状に輝く「金環日食」が起こる。日本のその他の地域でも太陽が大きく欠ける「部分日食」となり、その欠け具合は前述の帯状の地域に近いほど大きくなる。日本で金環日食が起こるのは、1987年に沖縄地方で見られて以来25年ぶりであるが、東京(※注1)に限れば、1839年9月8日以来173年ぶり、大阪(※注2)では282年ぶり、名古屋(※注3)では、実に932年ぶりの現象になる。この日食は、観察地点によりその見え方は違ってくるが、おおむね午前6時すぎに始まり、午前9時すぎに終わる。金環食になるのは午前7時半頃で、金環食の継続時間は国内で一番長い地点で5分間程度である。
この金環日食の最大の特徴は、金環日食の起こる金環帯の領域に、日本人口のおよそ3分の2、約8300万人の方々が居住していることにある。これだけ広範囲で金環日食が起こるのは、1080年12月14日以来932年ぶりであるが、現在の日本の人口を考えると、今回の金環日食は日本史上最も多くの人々が観察できる金環日食であるということができる。この金環帯の領域の人口は、全国各地の市町村役場の所在地が、金環帯に入っている/入っていないで分類し、(国勢調査のデータに基づき)入っている市区町村の人口の総人数を計算することで求めた(関連発表 Y25a)。
2009年7月22日のトカラ列島などで起きた皆既日食に関連しては、全国各地から日食網膜症の症例が報告されている。このような、日食網膜症の症例は、日本では1982年までに医学誌だけでも210例の報告がある。特に1936年(昭11年)6月の北海道北東部皆既日食では90例が報告されている。これらの症例数は医師を受診し、かつ医学誌で報告されたものだけなので、潜在例ははるかに多いはずである。海外では1912年の日食において、ドイツで3,500人が発症したとの報告もある。これらの多数の症例が報告されている当時の人口を報告されている症例で割ってみると、北海道で3.4万人に1人、ドイツでは2万人に1人の割合となる。この割合で、金環帯8300万人を考えると、2500人から4500人程度の日食網膜症の症例が起きることになる。その意味でも、今回の金環日食は、多くの人々が体験できる貴重な学習機会であると同時に、安全な観察法をしっかり伝えないと、かつて最大の日食網膜症の症例が起きる可能性がある(関連発表 Y24a, Y26a)。
(※注1)現在の東京都庁付近において。NASA Eclipse Web Site のデータによる。
(※注2)現在の大阪市役所付近において。NASA Eclipse Web Site のデータによる。
(※注3)現在の名古屋市役所付近において。NASA Eclipse Web Site のデータによる。