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金環日食における目の安全性:
日食網膜症の要因はある波長域の可視光線

 日食網膜症は、日食性網膜炎、太陽性網膜炎、日光網膜炎などとも呼ばれ、太陽を直視あるいはそれに近い状態で見た場合に、網膜が損傷を受けることにより発症する。日食網膜症の原因は、一般的には日食を不適切な方法で観察したことによる。自覚症状としては、中心暗点(視野の中央に暗い点が見える、視野の中心部分が暗く見えにくい)、視力低下、霧視(かすんで見える)、流涙、眼痛、字が抜けて見えるなどである。発症機構としては、古くは漠然と太陽光線によるものと考えられていたが、現在では、「光化学反応による網膜視細胞と網膜上皮細胞の障害」と考えられている。これは、光(紫外線、可視光、赤外線)のうち、可視光、特に光化学反応に関係する青色光(ブルーライト)の影響が大きいと考えられている(図3)。快晴で太陽高度が高い場合には、太陽をわずかな時間直視しただけでも、網膜の損傷の危険性があると指摘されている。このような最新の事実を踏まえ、金環日食に於ける目の安全性を広報するために、2012年金環日食日本委員会では、最新の情報を取り入れた広報活動を行っている(関連発表 Y24a,Y26a)。

 その実例として、社会的に大きな話題となった2009年7月22日の皆既日食の前に展開された世界天文年2009日本委員会による広報と、2012年5月21日の金環日食へ向けて活動中の2012年金環日食日本委員会による広報の違いがある。両者とも、太陽を肉眼で直接見つめると眼に障害を負う危険性があることを警告している点では共通しているが、その原因として、2009 年には紫外線や赤外線を指摘していたのに対し、現在では、可視光線のうちとくに短波長(380nm〜500nm付近)の青色光(ブルーライト)によって引き起こされる光化学作用が眼の網膜を傷める主な原因であるという知見を紹介している。2012年の日食へ向けて、日食の1年前からシンポジウムを開催し情報交換の場を設けていることや、日本眼科学会、日本眼科医会との協力関係を築いていることも、2009年には見られなかった動きである。

 


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