「かぐや」の月縁データを使った金環日食限界線の予報
金環日食の北限界線が、九州・四国・近畿・中部・関東の各地方を経て福島県に抜けている。この限界線を実際の観測から決めようという提案が学校教員や公開天文台関係者の間で行われている。しかし、その限界線の位置は、たとえば国立天文台暦計算室のウェブサイト http://eco.mtk.nao.ac.jp/cgi-bin/koyomi/eclipsex_s.cgi と NASA Eclipse Web Site http://eclipse.gsfc.nasa.gov/SEgoogle/SEgoogle2001/SE2012May20Agoogle.html の予報で2.7kmも異なっていて、観測をどこで行うべきかについて混乱が生じている (図6)。予報が異なる理由は、はっきりしていて、計算に用いるパラメータの採用値の違いによっている。いずれにしても、これらの予報では、予報に最も大きな影響を与える月縁の凹凸が考慮されていないので、いずれのパラメータの採用値が適切かという質問をしても無意味である。正確な予報を出すためには月縁の凹凸を考慮し、それに見合ったパラメータの値を用いる必要がある。
金環日食の限界線の位置が観測から求められると、太陽の大きさを求めるための貴重なデータになる。太陽の半径の値は国際天文学連合 (IAU) で696,000kmが採用されているが、これは1891年に求められた値である。最近の測定でも695,500kmから696,200kmまでばらつきがあり、真の値がいくつなのか、はっきりしていないし、それが変化しているのかどうかも定かでない。
以前の日食の観測で太陽の大きさが正確に求められなかった大きな理由に、月縁の凹凸が正確に分かっていなかったことがあげられる。精密な月の地形は2007年から2009年にかけて、日本の月周回衛星「かぐや」に搭載されたレーザ高度計による観測で得られた。
我々は今回、このデータを使って、金環日食時の月縁を図7に示すように予報した。
我々はこの月縁データを用いて、日本全体について、今回の金環日食の北限界線の位置を求めた。太陽の半径には国際天文学連合の採用値を使用している。その結果の一部は上に示した明石付近の地図に示してある。観測から、実際の限界線の位置が求められれば、太陽の半径の正確な値が分かることになる。
「かぐや」の月縁を考慮した今回の金環日食の予報について、詳しくはインターネットのウェブサイト http://optik2.mtk.nao.ac.jp/‾somamt/se2012.html に掲載されるので参照されたい。