金環日食限界線共同観測プロジェクト
2012年5月21日の金環日食の北限界線は九州、四国、近畿、中部、関東、東北の各地をとおり日本全国を縦断する(図2)。限界線については詳細な予測がなされているが過去の金環日食において限界線付近での共同観測の例はあまり多くない。我々のグループでは今回の貴重な機会に、金環日食限界線についての観測を呼びかける計画を立てている。この計画では、相馬らによる現時点で最も正確な金環日食限界線の位置のデータ(関連発表 Y29a)に基づいた詳細な限界線観測を行い、金環日食予測に必要なパラメータを決定することで、太陽半径を決定などの科学的計測に寄与すると共に、各地の市民に日食グラスで等倍での日食観測結果を報告してもらい、人間の肉眼分解能をもって観測した場合の限界線を決めること、多地点で金環食・部分食画像を同時撮影し集約することで、天体現象を宇宙視点で捕らえることが出来るような実写画像を作る、などを目的とした共同観測を計画している。本発表では金環日食限界線観測の計画の意義と内容について報告する。
金環日食限界線観測
0.金環日食限界線研究会について
本プロジェクトは金環日食限界線研究会がすすめている。この研究会は2012年の金環日食の限界線を研究するために井上の呼びかけで結成された有志の会で、研究者、天文施設関係者、学校教育者、アマチュア天文家が参加している。2012年2月時点で約30名。チームB,チームR,チームMおよび各地域グループで構成されている。
1.金環日食限界線について
金環日食帯について最近はインターネットの地図サービスの発達により限界線がどのあたりを通っているか手軽に調べることができるようになった。ところが実際に調べると予報によって大きな差があることがわかる。たとえば兵庫県明石市が金環食帯に入っているケースと入っていないケースもある。詳しく調べるとサイトによって限界線の予報はかなり違っている。主だった予報とその差異や理由については本年会で相馬らによって発表されることになっている(図6)。このたび発表される相馬・早水の予報は、現状ではもっとも精密な予想である。しかしそれでもなお限界線予測の不確かさは 約300m 残る。これは現在日食予報で用いられている太陽半径の不確かさに起因している。相馬・早水の予報で使用する太陽半径については19世紀のデータを使用しており、不確かさが100kmある。今回の金環日食において発生するベイリービーズの明滅の観測から先に述べた不確かさを小さくでき、過去最高の精度で太陽直径を決定できる可能性がある。このたび金環日食限界線研究会チームBがこの観測を行うことになっている。
2.日食メガネを使った等倍での観測
上記の精密な限界線予測とは別に、日食メガネを使った等倍での観測の場合、限界線に対しどこがリングになるかどうかはこれまでの研究例はいまのところ知られていない(図5)。これは人間の目の分解能や認識能力に起因するためどこが限界線になるかわからない。そこで全国の人々に呼びかけwebを通じて「日食メガネを使ってリングになったかどうか」を報告してもらい、その結果から、「日食メガネの限界線」を調べることを計画している。これは2009年の世界天文年で行った「めざせ1000万人!みんなで星をみよう」の経験をもとに、チームRが取り組むことになっている。また、全国各地の取り組みを活性化させ、取り組みについて連携したいとの声も多いことから、共同観測キャンペーンメニューを用意することになった。共同観測キャンペーンでは、日食グラスによる観測以外に、写真撮影、ビデオ撮影、ピンホールの観察、温度変化、照度変化、動植物の変化などを検討している。共同観測キャンペーンをL計画と呼ぶ。L計画の作成もチームRがおこなっている。なお、共同観測キャンペーンメニューからでは太陽半径は求まらないので要注意である。
3.教育的画像の作成
キャンペーンのなかで写真撮影については画像を集め、全国での食の進行の様子を同時に見ることができる教育的動画像をつくる。これはチームMの仕事である。
4.まとめ
我々の取り組みは、学術的に価値の高い観測、多くの国民が気軽に参加できる取り組み、後に残る教育画像作成など非常に幅広い取り組みになっている。金環日食限界線についてこれほど大規模な共同観測が行われることはおそらく人類史上初めてのことだと思われる。ぜひ成功させたい。
このたびの取り組みについての詳細は http://www.eclipse2012.jp/ にて発信する。(3月18日、記者発表の日より一般公開の予定 )